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特定整備とは? 制度の概要と分解整備からの変更点

投稿日:2021/06/23更新日:2021/08/05

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2020年(令和2年)4月1日より施行されている特定整備制度。この特定整備とは、分解整備の項目に電子制御装置が追加されたものです。今後も続く自動車技術の発展により、特定整備はさらに重要となります。

本記事では、分解整備との違いや変更された背景、認証工場になるために必要なこと、経過措置について解説します。

特定整備とは分解整備の項目に電子制御装置が追加されたもの

特定整備とは、分解整備の整備項目に電子制御装置が追加されたものです。異なる点がいくつかあるため分解整備についても理解しておく必要があります。

そのため本項では、特定整備の概要と分解整備について解説します。まずは基本となる知識を押さえましょう。

特定整備の概要
2020年(令和2年)4月1日より、分解整備から特定整備に名称が変更されました。分解整備との大きな違いは、整備内容に電子制御装置が新たに追加されたことです。なお、それ以外の整備内容については従来の分解整備と同様に行います。

そもそも分解整備とは? 分解整備の概要
特定整備をくわしく解説する前に、まずは分解整備について知っておきましょう。

自動車整備士の行う整備には、点検整備と緊急整備、分解整備の3つがあります。分解整備は自動車整備士のなかでも2級以上の有資格者しか行えません。そのため分解整備を行うには、非常に高い技術力が必要となります。

道路運送車両法では「原動機、動力伝達装置、走行装置、操縦装置、制動装置、緩衝装置または連結装置を取り外して行う自動車の整備または改造であって国土交通省令で定めるもの」と、定義されていました。

また、自動車整備工場で事業として取り組む場合、作業場面積や設備、要員などの認証基準を満たし、地方運輸局長から認証されなければなりません。なお、分解整備に該当する部位は下記のとおりです。

・原動機
・動力伝達装置
・走行装置
・操縦装置
・制動装置
・緩衝装置
・連結装置

特定整備で追加される電子制御装置の具体的な該当箇所
特定整備で追加される電子制御装置の具体的な整備作業は以下の3点です。

1.自動走行装置本体、自動走行装置の動作に影響を与える可能性のある整備、改造
2.自動ブレーキ、レーンキープアシストに使用されるカメラやセンサーの取り外し、コーディングや光軸の調整 
3.上記2つに関連するカメラやレーダーが装備されているグリルやバンパー、窓ガラスの取り外し、取り付け

電子制御装置整備作業は、自動車の安全運転に直結する整備、整備要領書やスキャンツールの活用が必要になるなど、整備作業の難易度が高くなります。また、自動運転技術のレベルに応じて整備や改造内容が一部異なります。

特定整備に変更された背景

分解整備から特定整備に変更されましたが、なぜ呼び方が変わったのでしょうか?
本項では特定整備に変更された背景、制度変更のタイミングについて解説します。

自動車技術の発展
特定整備に変更された背景には、自動車技術の発展があります。変革の大きな要として、自動運転や衝突被害軽減ブレーキなどを実現した電子制御装置の拡大、発展などが考えられます。

また、現在ではADAS(先進運転支援システム)を搭載している車が多く、自動運転に関係する開発が進められています。
しかし、分解整備の項目には自動運転と関連性の高い電子制御装置が該当していません。さらにはADASの不具合が原因となった事故も発生しているほどです。

これら分解整備との関連性により、電子制御装置の整備が認証を必要としないことが問題視されました。
これから普及するADSA搭載車の安全性を確保するためにも、電子制御装置に対して不十分だとされる分解整備制度の法改正が行われたのです。

制度変更のタイミング
2019年(令和1年)5月に交付された特定整備制度は、2020年(令和2年)4月1日から施行されています。

とはいえ、すぐに対応しなくても法律違反にはなりません。各事業者への配慮として、4年間の経過措置期間が定められています。

従来の分解整備に加えて、2020年(令和2年)3月31日までに電子制御装置整備に該当するような作業を行ったことのある事業者は、2024年(令和6年)3月31日までの間は、行ったことのある作業を引き続き行うことができます。

引用:国土交通省「特定整備制度説明会」資料

認証工場になるために必要なこと

4年間の経過措置期間があるとはいえ、いつまでも従来のままというわけにはいきません。
認証工場になるためには、一体なにが必要なのでしょうか。正しく知るためにも、本項では3つの項目に分けて必要なものをお話しします。

必要な設備や道具
認証工場になるためには、水準器や整備用スキャンツールの設置が必要となります。点検や整備に必要となる機器、法令や自動運転装置に関係する情報を入手可能な状態にすることが義務づけられているためです。

また水準器と整備用スキャンツールに加えて、作業場面積の条件を満たす必要があります。電子制御装置点検整備作業場と車両置場に分けて確保します。なお、下記の条件は普通自動車の認証基準です。

・電子制御装置点検整備作業場:間口2.5m、奥行き6m(屋内3m)
・天井の高さは対象のエーミング作業をするのに十分であること
・床面は平滑であること
・車両置場:間口3m以上、奥行き5.5m以上

エーミング作業
エーミング作業とは、ADASなどに使用されるセンサー類の調整を行う作業のことです。このエーミング作業には、静的エーミングと動的エーミングの2種類があります。

静的エーミングとは、停止させた車の周りにターゲットを設置し、調整を行うエーミング作業のことです。
一方、動的エーミングでは実際に車を走行させて、車線や標識、前方の車などを検知させます。動的エーミングは別名、走行エーミングと呼ばれます。

特定整備の対象になるのは静的エーミングのほうです。また、調整が動的エーミングのみで行える車両のケースでも、カメラやレーダーを交換した場合の機器のコーディング作業は特定整備に該当します。エーミング作業については非常に複雑なので、慎重に行いましょう。

整備主任者(運輸支局長による講習)
工員数や自動車整備士の基準は分解整備と変わりません。しかし、整備主任者は資格要件が変更になっているため、新たな講習を受講する必要があります。この講習は、現在では運輸支局長によって行われます。

分解整備、特定整備のどちらも兼任する整備主任者になる場合は、「1級自動車整備士」であるか「1級二輪自動車整備士または2級自動車整備士の資格を持ち、指定された講習を受講した者」でなければなりません。

整備主任の条件を満たす講習には「学科」「実習」の2項目があり、講習を受けたあと試問(筆記試験)を行うのが一連の流れです。

2020年(令和2年)以降に行われる、自動車検査員研修や整備主任者研修で学科の内容が含まれる講習を受講すれば、学科講習を受けたことになります。

また自動車整備振興会やディーラーで行っているエーミング講習や、以前受けたことのあるエーミング講習は、実習講習の一環として扱われます。

特定整備における認証工場のパターン

ここまで、認証工場になるために必要なことを解説しましたが、特定整備の認証工場のパターンは以下の3つに分けられます。事業所の状況に合わせて下記を参考にしましょう。

・従来の分解整備のみを行い続ける場合:必要となる手続きは特にない
・電子制御装置のみ整備を新たに行う場合:新たに認証が必要
・従来の分解整備、電子制御装置の整備の両方を行う場合:新たに認証が必要

自動車技術が発展するにつれ、ユーザーは新しい技術を搭載した車に興味を示し、従来の車から徐々にシフトしていくでしょう。そのため、特定整備制度の認証をいまのうちに受けておくことが必要です。

事業場(工場)数の推移

本項では事業工場の推移をもとに、特定整備制度の必要性についてみていきましょう。

自動車整備業の認証工場数は、日本自動車整備振興会連合会のデータによれば1994年(平成6年)から少しずつ上昇していましたが、2015年(平成27年)から減少傾向にあり、事業規模の縮小が予想されます。

一方、電子制御装置の整備対象車両は2020年11月末では、合計112車種(国産メーカー11社取扱い車種+輸入車インポーター2社取扱い車種)となっており、今後も増加し続けると期待されているのです。

電子制御装置の整備対象車両が増えていくということは、従来の整備工場では整備や修理のできない車両が増えていくということなので、やはり特定整備制度の認証は早めにしておきましょう。

経過措置は4年間、ただし条件がある

特定整備制度には4年間の経過措置が設けられています。2020年(令和2年)3月31日までに電子制御装置の整備を行っていた事業所は、2024年(令和6年)の3月31日まで電子制御装置をそのまま整備することが可能です。

しかし、それまでに電子制御装置を整備していない事業所の場合は、新たに特定整備工場の認証を受けなければなりません。

また、整備主任者の要件も1年の経過措置が設けられていました。

その内容として、2020年(令和2年)の4月1日〜2021年(令和3年)の3月31日までの1年間に限り、整備主任者が講習の受講が困難な場合で、特定整備の要件が満たせない時は「2021年(令和3年)3月31日までに講習を修了する内容を記載した計画書」を提出することで整備主任者として認められるというものでした。

もし、まだ講習を終了していない場合は、整備主任者の選任が解除されている状態となり、特定整備事業の認証基準を満たしていない状態となるので、注意が必要です。

まとめ

今回は、特定整備制度の基礎概要、認定工場に必要なことを解説しました。

特定整備は分解整備の名称だけが変わったものではなく、整備項目に電子制御装置が追加されたものです。

今後、自動車技術はますます発展していくことが予想されます。その中で、お客様の安全を守るためには整備項目が変わっていくことも必然です。

特定整備に対応することは、お客様の安全を守ることにつながると同時に、自動車整備業の経営にも大きく関わってきますので、今のうちから対応していくことが必要です。