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第四次産業革命と自動車整備業。これから先10年に起こる未来とは

投稿日:2021/08/05更新日:2021/08/05

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「産業革命」という言葉を聞いたことがあるかと思います。

歴史上に起こった大きな変革の一つですが、現在が「第四次産業革命」の黎明期と言われているのはご存知でしょうか。

過去のことではなく、今まさに私たちの事業や生活に関わってくる変化が起ころうとしているのです。

もちろん、自動車整備業も例外ではありません。今回は、その第四次産業革命について考えてみたいと思います。

人類史上最大のパラダイムシフト

現在は、第四次産業革命の黎明期とも言われ、この産業革命がこれから300年続くと言われています。

この第四次産業革命についてお伝えする前に、まずは第一次から第三次までの産業革命について振り返ります。

第一次産業革命は、蒸気機関の発明から始まりました。
人間が自分たちよりも大きなものを動かせるようになり、モノづくりの工業化が進みました。

第二次産業革命は、エネルギーの主役が石炭から石油(ガソリン)、電気へと変わり、重工業や化学工業が発達しました。機械が小型化して一般的に普及するようになり、人々の生活が変わっていきました。 

第三次産業革命を語るには、コンピュータの存在が欠かせません。
コンピュータにより機械が自動化され、より多くの機械を動かして効率的な大量生産が可能になりました。また、情報通信産業の拡大も起きました。

このように、数百年の間で数度起こった「産業革命」によって私たちの生活はより便利に、豊かになってきました。

そして、現代は第四次産業革命に位置付けられています。

第四次産業革命においては、すべての産業やサービスが再定義されるといわれ、自動車業界にもその流れは押し寄せています。

今後、どのような変化が訪れるのか、まずは確実に訪れる未来を考えてみます。

確実に訪れる未来

これからの10年の間に起こる変化と自動車業界について考えてみましょう。

・IoT(アイオーティー)
第四次産業革命のキーワードの一つが「IoT(アイオーティー)」です。

Internet of Thingsの略で、あらゆる「モノ」がインターネットを通してサーバーやクラウドに接続され、ステータスなどの情報交換が行われることを指しています。

それは、人々の購買行動や日常生活が、インターネットを通して行われるのが当たり前になるということです。

実際に、私たちはすでにスマートフォンをインターネットにつなげた状態で、さまざまな行動をしています。

たとえば、起床時間の設定や、移動手段の決定。興味、関心、趣味、嗜好に関することもインターネットを通じて検索して調べ、決定し、予約・購入などをしています。

このように生活が便利になることは、インターネットを通じてあらゆる情報が収集されていることを意味しています。

それらの行動データは商品開発に利用できるため、これからの10年は、自動車関連の商品やサービスにおいても、あらゆるモノやコトがインターネットをベースに設計され、提供される未来が予想できます。

自動車メーカーにおいては、世界的に組織のホールディングス化が加速するでしょう。

国内においても、インターネットとつながるコネクテッドカーの事業戦略を立案する持ち株会社と、 その傘下にパーツとしてのハード(車)を製造する旧来型の自動車メーカーが存在するという構造が生まれることが予想されます。

自動車整備業界で言えば、車、整備コンピュータはもちろん、車検関連のテスター、検査機器、塗装ブース、溶接機などもインターネットにつながることが予想されます。

それは、誰が、いつ、どんな検査や修理をしたのかがすべて記録されることを意味しています。

ビッグデータ
次のキーワードとして挙げられるのが「ビッグデータ」です。IoTによって集まる情報は大量のデータとして蓄積されていきます。

それがビッグデータです。ただしこのデータは秩序なく、規則性もなく日々生み出され続けているという特徴があります。

今までは見過ごされ、捨てられてきた情報ですが、技術の進化によって蓄積・活用できるようになり、一気に注目を浴びています。

ではなぜ、ビッグデータが注目されているのでしょうか。それは、ビッグデータの活用により、今までにない知見や発見に結びつく可能性があるからです。

たとえば、天気と小売店の売上の相関関係などは、これまで店主の経験や「なんとなく」といった勘に頼るものでした。

また、人々の関心と経済活動との因果関係など、これまで結びつけることのできなかった事象について、実は関連性があるということをデータが証明してくれる時代になるのです。

自動車整備業界に置き換えると、天気や行事などによる人間の行動予測データと過去の事故発生データなどが蓄積されることで、今後発生する事故や故障の予測ができるようになります。

また、その結果、自社にどのくらい入庫しそうかなどの予測が可能になるのです。

ロボット
続いてのキーワードは「ロボット」です。現代のロボットは、ロボット自身が「眼」と「脳」を持ち、自己学習をして目的を達成する自律型のものです。

これにより人間的な難易度の高い作業もこなせるようになり、人でしかこなせなかった労働を肩代わりすることが可能となっています。

また自律型でないロボットであっても、5Gのような通信の技術革新により、遠隔でロボットを操作することがより容易になります。

これは、人の能力が拡張されたと言ってもよいでしょう。場合によっては、人間がロボットと一緒になって仕事をするような場面が増えてくるかもしれません。

このほか、パソコンの中に常駐して人間の代わりにエクセルやワードを操作し、事務処理を行うようなデジタルロボット(RPA)もあり、大企業の総務部門などですでに活躍しています。
※RPA(Robotic Process Automation)とは、人間がコンピューター上で行っている定型作業を、ロボットで自動化すること

これまで事務作業は、派遣社員などを複数人雇って、人力でパソコンに入力していましたが、一人で複数のRPAを管理しながら自分自身の実務をこなすことができれば、生産性は飛躍的に高まります。

RPAを扱える人材は「ハイブリッド派遣」と呼ばれ、一人で二人分以上の仕事をこなせるのです。

こうしたロボットとの付き合いを通し、いかにロボットを使いこなして生産性を高められるかどうかが、これからの10年間で企業の競争力の差になって表れてきます。

これを自動車整備業界に置き換えると、鈑金塗装の引き取り、納車業務、整備車検の受付業務、見積もり作成や請求業務、作業の工程管理、社員の労務管理などは、ロボットが代行できる余地がかなりあると考えられます。

こうして見てみると、ロボットの登場は人の仕事を奪うのではなく、むしろロボットのおかげで人間の作業負担が減り、自由な時間が増えていくことがわかります。
それは、人のより豊かな暮らしにつながると想像できます。

AI
最後のキーワードは「AI=人工知能」です。Artificial Intelligenceの略で、Artificialとは人工的・人造、Intelligenceは知能・知性という意味です。

実は、AIに脚光が集まるのはここ最近の話ではなく、これまでに1950年代から60年代の第一次AIブーム、1980年代の第二次AIブームがありました。それらを経て、現在は第三次AIブームの真っ只中です。

過去のAI開発では、知識や情報などをコンピュータに覚えこませて、複雑な問題の答えを導こうとしました。

ところが、すべての情報や思考パターンを手作業で入力しなければならず、データの蓄積も容易でないことから、ブームは長続きしませんでした。

しかし、2000年代に入るとインターネット上における「クラウド」の進展で、情報の蓄積が飛躍的に改善しました。

コンピュータ自体も劇的な高性能化・小型化・コストダウンを実現したことにより、コンピュータ自らが情報を収集し、解析することが可能になったのです。

そして2016年(平成28年)、ディープマインド社の「アルファ碁」という囲碁プログラムが世界のトップ棋士に勝利し、「名誉九段」を授与されました。

当時、ニュースでも報じられたので記憶にある方もいらっしゃるでしょう。囲碁は人間が最も得意とする複雑なゲームであると言われてきましたが、とうとう人間がコンピュータに負けたのです。

この「アルファ碁」ですが、最初に囲碁のルールだけを与えられ、後はひたすら自己学習(自己対戦)によってAIが進化したというエピソードがあります。

ルールを与えられてから人間を超えるまでに要した日数はたったの3日間だったそうで、AIの自己学習能力の高さに驚かされます。

AI自らが情報の蓄積と自己学習ができるようになったこと、それが現在の第三次AIブームの特徴です。

スマートフォンが集客の主戦場に

これまで、第四次産業革命における四つのキーワードを紹介しましたが、これらに関わっているのがスマートフォンです。

IoTの項目で解説した通り、スマートフォンの普及により個人の情報を簡単に入手できるようになりました。

人の行動パターンがデータ化、収集された個人の情報は、ビッグデータとして蓄積されていきます。

つまり、スマートフォンは単なる電話ではなく、手のひらサイズのコンピュータなのです。

今や、スマートフォン対策こそがビジネスの重要な戦略になっているということを認識しましょう。

もし、自社のWEBサイトがパソコンを前提に作っているとすると、相当な機会損失を生んでいる可能性があります。

それは、スマートフォンの世帯普及率からも明らかです。総務省が2020年(令和2年)に発表した情報通信白書によると、2019年(令和1年)の世帯におけるスマートフォンの保有割合は83.4%となり、全体の8割を超えました。

それに比べて、パソコンは69.1%、固定電話が69.0%となっています。こうしたデータからも、これからのスマートフォン対策の重要性がお分かりいただけるかと思います。

そのため、まずは「自社WEBサイトのスマートフォン対策」という身近なところから、着手していく事が大切です。

まとめ

ここまで、この先10年間で起こる未来について考えてきました。これらのことが複合的に絡み合い、第四次産業革命がゆっくりと確実に起こっていきます。

しかし、自動車整備工場や鈑金塗装工場においては、ご紹介した第四次産業革命によってこれらの工場が淘汰されるのではなく、むしろ存在価値が飛躍的に向上していくと考えられます。

そのため、第四次産業革命により社会そのものが変わっていく中、自動車整備業界のあり方そのものも問われているという事実に気づくことが重要なのです。