業界トレンド
エーミングの基礎知識。作業内容と必要工具・環境をまとめて解説
投稿日:2021/06/23更新日:2021/07/21
エーミングとは、車の安全走行機能を正常に働かせるために重要な電子制御装置が正しく作動するかどうかを確認し、調整する作業です。現代ではASVと呼ばれる安全走行機能付きの車が多く販売されており、エーミング作業が欠かせなくなっています。
そこでこの記事ではそんなエーミングについて、概要から作業内容、必要な工具、作業環境、資格などをまとめて解説します。エーミングに関する知識をしっかりと補完していきましょう。
エーミングとは
エーミングとは車のセンサーやカメラといった電子制御装置が正しく作動するための校正、調整作業です。
現在の自動車業界では、衝突被害軽減ブレーキなどの安全装置が車に標準装備されるようになりました。それらの機能を確実に作動させるためのエーミングが欠かせない作業となりつつあります。
また、2020年(令和2年)4月1日に施行された改正「道路運送車両法」で、国土交通省はこれらの電子制御装置の交換や修理を「特定整備」と定義付けました。それにより、この特定整備を行うには地方運輸局の「認証」が必要となり、整備する人が一定の要件を満たしていることが義務付けられるようになりました。
エーミングは高度な専門技術が必要とされ、車の安全を左右する重要な作業です。
エーミングの作業内容
エーミング作業は特に衝突被害軽減ブレーキなどの先進安全装置を正しく作動させるための「校正作業」です。先進安全装置にはいくつかのセンサーが使われており、例えばフロントガラス交換などを行なった際にも調整が必要になります。
エーミング作業を行わないとカメラへの写り方が変わってしまったり、音波センサーが正常に動作しなくなったりしてしまいます。
そのため、安全装置付きの自動車のあらゆる整備には、エーミングを並行して行う必要があります。そして現代の車は先進安全装置が搭載されていることが多いので、エーミングの作業の需要はますます高まっています。
エーミングはASV(先進安全システム搭載自動車)の整備に必要
ASVとはAdvanced Safety Vehicle(アドバンスド・セーフティ・ビークル)の略で先進安全システムを搭載した自動車を指します。ドライバーの認知・判断・操作をサポートするために、さまざまなシステムが搭載され始めています。
なかでも代表的な先進安全システムは、下記のようなものが挙げられます。
- 車線逸警報装置
- 衝突被害軽減ブレーキ
- ふらつき注意喚起装置
- リアビークルモニタリングシステム(後側方接近車両注意喚起装置)
- 車間距離制御装置(ACC)
エーミングはこれらの電子制御装置を正しく作動させるために必要な作業です。
エーミングに必要な工具
エーミングは精密さが求められる作業なので、専用工具をもれなく用意することも非常に重要です。それぞれの必要な工具と、その役割を解説します。
■エーミングに必要な工具
エーミングに必要な工具は大きく分けて3つあり、エーミングの作業環境を整えるために必要なものと、エーミング作業時に必要なもの、補助的に使うものがあります。
1.エーミング作業の前に必要なもの
- 水準器:作業を行う床面の水平度を確認します。
- アライメント測定器:エーミング作業の前にアライメントを調整します。
2.エーミングの作業を行うときに必要なもの
2.1 車の中心線を出す
- 水糸:車両の前端と後端に水糸を使用して車両中心を出します。
- 下げ振り:車両中心を出すために下げ振りを下げます。
2.2 ターゲットの位置を決める
- 整備書(各自動車メーカー):ターゲットの位置などが記載されています。
- メジャー:ターゲットを置く位置を計測します。
- デジタルプロトラクター:ターゲットの向きや直角の正確さを計測します。
2.3 実際にエーミングを行う
- ターゲット、リフレクター:車のカメラに読み込ませるための標的です。メーカーや車種によってターゲットの 配置やサイズに規定があります。整備マニュアルなどに掲載されていることが多いです。
- スキャンツール:外部診断機です。診断機の指示に従ってエーミングを実施します。さまざまな車種に対応できる汎用エーミングツールもあります。
3.その他:補助ツールとして使う可能性のあるもの
- デジタル角度計:バンパーなどに取り付けられたセンサーの取付角度を計測します。
- レーザー距離計:対象物との距離を計測します。
- 補助金具:デジタル角度計とレーザー距離計を組み合わせて使います。
エーミングに必要な作業環境
工具の準備と並行して、適切な作業環境を整えることも重要です。エーミング作業に適した環境の条件について詳しくみていきます。適した環境を整えるためには3つの条件があります。
1.水平かつ無風であること
エーミング作業は繊細なため、床の水平度や風に影響を受けます。必ず水準器などを用いて床の水平度を調べ、そして無風の環境を整えましょう。
2.車のサイズにあったエーミングを行う床の広さが確保されていること
車のサイズによって指定された床の広さが十分にないと、ターゲット(エーミングの際に必要な標的)を正確に置けないなどの問題が発生してしまいます。各車のサイズによって指定される作業場の広さは以下の通りです。
- 軽自動車の場合、奥行き5.5m(うち、屋内4m)、幅2m
- 普通乗用車の場合、奥行き6m(うち、屋内3m)、幅2.5m
- 普通大型自動車の場合、奥行き16m(うち、屋内7m)幅5m
3. 周囲および路面に反射物や光沢物がなく、明るさが十分にあること
反射物や光沢物があると、校正対象のカメラやセンサーが誤検知してしまう可能性があります。そのため、あらかじめ反射しやすそうなものは作業場から遠ざけましょう。
また、ミリ波レーダーを検査する場合は、金属類があると電波を反射してしまうので、金属の物体を遠ざける必要があります。さらに、ターゲットを正常にスキャンできるよう、明るい室内環境を整えることも重要です。
エーミングの資格
エーミングには必要な工具や適した作業環境だけでなく、国が定めた基準を満たす専門知識やスキルも必須です。エーミングの資格は、国が行う電子制御装置整備の整備主任者等資格取得講習に参加し、試験を合格することで取得ができます。
この講習は全国で行われ、講座、特定整備事業について学ぶ学科編と故障原因探究や先進安全技術などの実習編に分かれています。その後、試験により習熟度を確認し「電子制御装置の整備主任者等」の要件を満たしていると判断された場合に、資格が付与されるのです。
電子制御装置整備の整備主任者等資格取得講習のほかにも、国土交通省自動車局が行う「自動車整備技術の高度化検討会」でエーミング作業の体験会が実施されています。
エーミング作業による調整が必要なケース
ASVの自動車を修理するときにはほとんどの場合エーミング作業が必要となります。
例えば、安全装置以外の主なケースは以下の通りです。
- バンパーやグリル交換(エンブレムの裏にセンサーが付いているため)
- フロントガラス交換、着脱(ガラス上部にカメラ・センサーが付いているため)
- ドアミラー交換、着脱(下部にカメラがついているため)
- フレーム修正を行う鈑金塗装
一方、安全装置の修理に関するケースは以下の通りです。
- 自動ブレーキやレーンキープアシストに使われる前方をセンシングするためのカメラの 取り外しや機能調整
- 自動運転装置の取り外し
- 自動運転装置の作動に影響を及ぼす恐れのある整備や改造
エーミングと車検について
エーミングが正しく行われているかどうかは今後必須の確認項目になっていきます。国土交通省によると「車載式故障診断装置(OBD)」を使った車検を2024年10月1日より開始する予定です。
これによりエーミング実施の有無がわかり、未実施の場合は車検に通らなくなってしまいます。
車載式故障診断装置(OBD)を使った車検では、法定スキャンツールや特定DTC紹介アプリをインストールする必要があり、特に法定スキャンツールが十分に行き渡るよう、国が準備を急ピッチで整えています。
また、車載式故障診断装置(OBD) の車検の対象車は国産と輸入車で若干異なります。国産車は2021年(令和3年)10月1日以降の新型車が対象で2024年(令和6年)10月1日より検査必須になります。
一方、輸入車は2022年(令和4年)10月1日以降の新型車が対象で、2025年(令和7年)10月1日より検査必須になります。
まとめ
今回はエーミングについて、概要から作業内容、必要な工具、作業環境、資格などをまとめて解説してきました。
エーミングとは、衝突被害軽減ブレーキなど電子制御装置が整備後も正しく作動するようにする校正作業です。
エーミングには必要な工具や適した作業環境があり、国が定めた専門知識やスキルも必須になります。
また、今後の動向として、ASV車両の普及により、2024年10月1日以降はエーミングを行わないと車検に合格できなくなります。ドライバーの安全運転をサポートするために必要不可欠なエーミングは、これから整備項目として必須になるということです。
今のうちにエーミングに関する知識を確実に身につけ、実施できるように対応していきましょう。