車の調子やエンジンの調子を左右するエンジンオイル。エンジンを守るためのオイルであることから、通常の使用で走行距離1万5,000kmごと、または1年に1回の交換が推奨されています。
エンジンオイルには粘度に加えて規格やグレード、ベースとなるオイルが異なり、多彩な商品があります。
粘度は新車時のオイルの数字を基準とすれば良いのですが、それ以外では何を基準に選べば良いのかわからないという人も多いでしょう。
そこで、今回はエンジンオイルの規格やベースオイルについて解説します。
エンジンオイルのグレードとは?
エンジンのオイルの「グレード」とは、オイルの品質、性能を表す規格のこと。国や地域などによって規格は複数あり、日本ではAPI規格、ILSAC規格、JASO規格、ACEA規格が一般的です。
複数の規格がありますが、規格ごとに重視している性能は異なります。省燃費性を重視した規格、耐久性を重視した規格などさまざまで、それぞれの規格の中で性能や品質ごとに等級があります。
車の進化に合わせてエンジンオイルも新しくなっていくため、上位のグレードほど新しくて性能や品質が良くなっているといえます。
API規格
API規格は、省燃費性、耐熱性、耐摩耗性などの性能を設定した規格で、アメリカ石油協会(API)とアメリカ自動車技術者協会(SAE)、アメリカ材料試験協会(ASTM)によって定められています。
ガソリン車とディーゼル車で等級を表示するアルファベットが異なり、ガソリン車はS、ディーゼル車はCで表示されます。そのうしろにABCなどのアルファベットが並び、AからZに進むほど性能が高くなっていきます。
現在、ガソリン車は13、ディーゼル車は6つの等級があります。
なお、ガソリン車とディーゼル車のどちらにも使えるオイルは、「SL/CF」のように併記されます。
API規格のガソリンエンジンオイルの規格表示
ベースオイルとなるSAから始まり、2020年制定のSPまで13段階の規格表示があります。
特徴 | |
SA | 添加物を含んでいない、ベースオイルとなるオイル。 |
SB | 最低レベルの添加物を配合したオイルで、SAよりもかじりの防止、酸化安定性が改善されている。 |
SC | 1964~67年型のガソリン車に対応。デポジット防止性、摩耗防止性、サビ止め性、腐食防止性が備わっている。 |
SD | 1968~71年型のガソリン車に対応。SCより高い性能を備えている。 |
SE | 1972~79年型のガソリン車に対応。SDより酸化、サビ、腐食などの防止性が高くなっている。 |
SF | 1980年型以降のガソリン車に対応。酸化、高温・低温デポジット(堆積物)、サビ、腐食に対する優れた防止性能を発揮する。 |
SG | 1989年型以降のガソリン車に対応。SFの性能に加えて動弁系の耐摩耗性、酸化安定性、エンジン本体の長寿命化を狙った性能を備えている。 |
SH | 1993年型以降のガソリン車に対応。SGの性能より、スラッジ防止性、高温洗浄性が向上している。 |
SJ | 1996年型以降のガソリン車に対応。SHの性能より優れた蒸発性、せん断安定性が追加されている。 |
SL | 2001年に制定。環境保護に対応し、省燃費性が向上(CO2の削減)している。排出ガスの浄化(CO、HC、NOxの排出削減)、オイル劣化防止性能の向上(廃油の削減・自然保護)、エンジンの長寿命化を実現している。 |
SM | 2004年制定。SLの性能より優れたオイルの耐久性能、浄化性能、耐熱性、耐摩耗性を持ち、有害排気ガスを低減する。 |
SN | 2010年制定。SMの性能より省燃費性能の持続性が向上。酸化にも強くなり、触媒保護性能が強化されている。 |
SP | 2020年制定。SNの性能に加え、省燃費性能が向上し、耐エンジンスラッジ、清浄性などが強化されている。 |
API規格のディーゼルエンジンオイルの規格表示
Cから始まり、2サイクルディーゼルエンジンを含む14段階の規格表示があります。
ここではそのうちの6段階を紹介します。
特徴 | |
CA | 使用負荷が軽度から中度のディーゼルエンジンオイル。軸受腐食防止性、高温デポジット防止性がある。 |
CB | 使用負荷が軽度から中度のディーゼルエンジンオイル。低質高硫黄含有燃料にも対応し、デポジット防止性と耐摩耗性が優れている。 |
CC | 自然吸気式ディーゼルエンジンなど、中~高負荷運転に対応し、高負荷ガソリンエンジンにも使用が可能。高温デポジット防止性、サビ止め性、腐食防止性などがある。 |
CD | 過給式ディーゼルエンジンなど高速高出力のエンジンに使用され、耐摩耗性とデポジット防止性が高く、軸受腐食防止性にも優れている。 |
CF | 建設機械や農業用機械など、高速回転を必要としない機械向けで、必要とされる性能はCDと共通している。 |
CF-4 | 大型トラックなどの低硫黄燃料を使用する高負荷大型ディーゼルエンジンに使用され、ピストンデポジット抑止性や消費抑止性が高い。 |
ILSAC規格
ILSAC規格とは、エンジンの環境負荷低減と小型高出力化を目指した規格で、日米の自動車メーカーが組織する米国自動車工業会(AAM)と日本自動車工業会(JAMA)が設立した国際潤滑油標準化認証委員会(International Lubricant Standardization and Approval Committee/ILSAC)が制定しています。
規格表示は「GF」から始まり、現在は1~6までの等級があります。
ILSAC規格のガソリンエンジンオイルの規格表示
「GF」の後の数字が大きいほど新しいものとなり、現在の最新はGF-6です。
特徴 | |
GF-1 | API規格のSHに相当。スラッジ防止性、高温洗浄性に優れている。 |
GF-2 | API規格のSJに相当。GF-1に比べて蒸発性、せん断安定性が強化されている。 |
GF-3 | API規格のSLに相当。GF-2より省燃費性が向上し、排出ガス(CO、HC、NOx)の浄化性能が高まっている。 |
GF-4 | API規格のSMに相当。浄化性能、耐久性能、耐熱性、耐摩耗性がGF-3より優れている。 |
GF-5 | API規格のSNに相当。GF-4より省燃費性能の持続性が向上している。 |
GF-6 | API規格のSPに相当。2020年に制定。GF-5より省燃費性能や清浄性など総合性能が向上している。 |
JASO規格
JASO規格は、主に国産およびアジアのディーゼルエンジンオイルに適用されている日本独自の規格で、ディーゼル微粒子除去装置(DPF)装備車が対象です。日本自動車規格(Japanese Automobile Standards Organization/JASO)によって定められています。
乗用車用のエンジンオイルでは、「DL」の後に数字をつけて表示されます。高温酸化防止性が強く、API規格に比べて日本製エンジンに適合させるための滑りタイプの動弁系の摩擦防止性能強化などが付加されています。
JASO規格のディーゼルエンジンオイルの規格表示
3段階の規格表示があり、最初に制定されたものはDL-1、次いでDL-0が制定され、最新は2021年制定のDL-2です。
特徴 | |
DL-0 | 2017年制定。DL-1および、API規格のCF-4相当の品質。 |
DL-1 | 2005年制定。クリーンディーゼル乗用車などに対応。 ディーゼル微粒子捕集フィルター(DPF)の目詰まり寿命の向上や、 省燃費性を規定して環境負荷を軽減。高温酸化防止性も強化されている。 |
DL-2 | 2021年制定。ディーゼル乗用車などに対応。 油中金属分量の指標となる硫酸灰分規格値をACEA規格のC規格相当である0.7%以上、 0.8%以下にまで拡大した。 |
ACEA規格
ACEA規格は、BMWやフォルクスワーゲンなど欧州の自動車メーカーに加え、トヨタなどを含めた15社による欧州自動車工業会(Association des Constructeurs Europeens d'Automobiles)が制定する規格です。
ほかの規格に比べ、耐久性が重視されている傾向があります。
ガソリンエンジン用のA規格、乗用ディーゼル用のB規格、DPF付きディーゼル(クリーンディーゼル)エンジン用のC規格、高負荷ディーゼルエンジン用のE規格といった4つのカテゴリーがあります。
なお、このうちA規格とB規格は統合され、現在は「A1/B1」といった表記になっています。
ベースオイルの種類
エンジンオイルを選ぶ際には低温時と高温時の粘度が重要ですが、基本的には自動車メーカーが推奨する粘度を使用します。そして、エンジンの働きに作用するのがベースオイルです。
ベースオイルとはエンジンオイルの基本となるオイルで、種類によって基本性能が異なります。
ベースオイルは主に「化学合成油」「部分合成油」「鉱物油」があり、各オイルメーカーがさまざまな性能を発揮する添加剤を追加していくことで、高性能なオイルが生まれます。
化学合成油
人工的かつ化学的に合成されたベースオイル。酸化安定性があり、低温流動性に優れるなど目的に合わせて合成されているため、高性能ですが価格は高めです。
走りにこだわりたい人や車を大切に乗りたい人、またターボエンジン搭載車やスポーツカーなどに適しています。
なお、「合成油」は原油から非常に高度な処理を行なった高品質な鉱物油のことで、厳密には「化学合成油」とは区別されます。
部分合成油
鉱物油に対し、化学合成油を20%以上ブレンドしたベースオイル。
鉱物油の揮発性が高い面などを化学合成油で補っているため、基本性能の高さとコストパフォーマンスの良さをバランスよく両立させています。
毎日乗る車などにおすすめです。
鉱物油
原油から不純物を取り除いて精製したベースオイル。コストパフォーマンスが良い反面、酸化が早く、揮発性が高いという欠点があります。
API規格の分類では、一般的にベースオイルとして使用される鉱物油は「グループ1(G1)」のものとなり、G1をさらに精製した「グループ2(G2)」は性能が高いものの高価なため、使用しているメーカーは少ないです。
添加剤の種類
車のエンジンは、高速で上下に動くピストン部や毎分数千回転で回るベアリングなど、複雑な仕組みによって動いています。
それらの動きを滑らかにするエンジンオイルには温度変化や劣化、摩耗による金属片の発生など過酷な状況下で性能を発揮することが求められます。
そこで、目的ごとの添加剤を配合することで、高い性能を実現させています。
性能 | |
酸化防止剤 | 空気や熱、光、金属触媒などにより加速されるエンジンオイルの劣化、酸化を抑制する。 |
洗浄分散剤 | エンジン内部の汚れを取り込み、大きくならないよう閉じ込め、分散することで エンジン内部をクリーンに保つ。 |
粘度指数向上剤 | 高分子化合物の作用により、油温が高い時にオイルの粘度が低下しないよう維持する。 |
摩擦調整剤 | エンジン内部の摩擦を減らして金属摩耗を抑え、燃費を向上させる。 |
流動点降下剤 | 低温時でもオイルが硬くならないようにし、オイルの適用温度範囲を広げる効果がある。 |
極圧剤 | 動弁部や歯車の金属摩耗を防止し、潤滑性能を高める。 |
消泡剤 | エンジン内部で発生する泡立ちを抑制する。また、発生した泡を素早く消し、 泡による油膜切れを防止する。 |
着色剤 | オイルに色をつける。 |
まとめ
車の心臓部ともいえるエンジンを助けるエンジンオイル。
カーディーラーや自動車整備工場でおすすめされるエンジンオイルを使用すれば大きな間違いはありませんが、規格やグレードなど、どのようなものが使われているのかは理解しておきたいところです。
自分の車の乗り方に合わせたエンジンオイルをしっかりと選んでいきましょう。
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※2021年11月現在の情報をもとに掲載しています。