マーケティング
中古車在庫の投資効果は「交叉比率」でみる!目指すべきは回転が良く利益が多い経営
投稿日:2021/10/21更新日:2022/10/28
今回も、カーライフ事業専門の経営コンサルタントとして長年活躍する株式会社ティオの山本 覚氏による講義の中からお届けします。
山本氏は当講義において「在庫と回転率」をテーマに「交叉比率が高い店舗が優秀であり、経営者は回転が良く利益が多い経営を目指すべきだ」と語っています。
この記事では、中古車在庫の投資効果を見る指標「交叉比率」と、経営の効率を測る「回転」についてくわしく解説します。
優秀な販売店は交叉比率で判断
ここに、2つの販売店があります。
A.中販店:平均在庫40台、販売20台、売上高2,100万円、粗利益286万円
B.中販店:平均在庫25台、販売14台、売上高1,470万円、粗利益200万円
どちらが優秀な販売店でしょうか?
一見、A中販店の方が販売ボリュームがあり粗利も上がっているので、こちらに軍配を上げたいところです。
しかし、実際には在庫と商品の効率をみる指標である「交叉比率」の高い方が、良い店舗だといわれます。
先ほどの例で計算してみましょう。
A.中販店:(286万円÷2,100万円×100)×(20台×12ヵ月÷40台)=粗利率13.6%×6回転=81.6(交叉比率)
B.中販店:(200万円÷1,470万円×100)×(14台×12ヵ月÷25台)=粗利率13.6%×6.7回転=91.1(交叉比率)
このように、経営の中身をみれば、B.中販店の方が効率の良い経営をしていると言えます。
回転率で差が出る
ご覧のとおり、交叉比率を計算する際に差が出ている部分は「回転率」です。回転率が違うだけで、これだけ交叉比率が変わってきます。
したがって、粗利率も大事ではありますが、より注目すべきは「回転」であるということが分かります。ただ単に、粗利だけで一喜一憂するのは偏った判断を招きかねません。
経営者は、回転はどうだったかという別の物差しをもってお店が良い状態なのか、それとも悪い状態なのか評価していく必要があります。
このように「交叉比率」は、小売業商売の最も重要で基本的な指標となります。
売り上げは何によって変わるか?
売り上げは、単価×数量で変わってきますが、一方で「回転」という捉え方も可能です。
たとえば、10坪のお店で1個10円の商品(1個で1坪の面積を占有)を売ると、1日の総売上はいくらになるでしょうか?
1秒間に10個売れると仮定し、商品補充(仕入れまでのタイムラグ)を0秒とすると、計算上では「10円×10個×60秒×60分×24時間=864万円」の売り上げとなります。
つまり、売り場面積や商品単価は、それほど売上には関係ないということです。
また、店舗が大きいから、または単価の高いものを売っているからといって売り上げが多くなるわけでもありません。何秒で在庫を空にして、いかに速く補充するか。
つまり「効率よく商品が流通しているか」がポイントとなります。
ちなみに上記の例では、10個の商品を陳列すると店舗は満杯になり、全部売り切ると100円の売り上げです。これを「1回転」といいます。1日に何回転するかで、売り上げが決まるのです。
上記の例の売上864万円とは、86,400回転(1秒に1回)ということになります。小売業の売り上げは、「在庫をいかに回転させるか」によって左右されます。
これこそが、小売の考え方の基本となる部分なので、頭に入れておくことが大切です。
回転とは何か?
期間や率で表される「回転」とは、以下の割合を指します。
- 一定期間に資金を投じて在庫(生産)した製品が、売り上げ(利益)となり戻ってくる割合
- サービス業や宿泊業、特に飲食店などで次から次へと客を入れ替えて1日どれだけの客をさばけるかという割合(宿泊業は稼働率、タクシー業は乗車率など)
回転とは、経営や販売の「効率性」をみているということです。
1ヶ月(30日)の平均在庫回転日数と平均在庫回転率を算出する場合の計算式は、下記のとおりです。
- 平均在庫回転日数=(平均在庫台数÷月間販売台数)×30日
- 平均在庫回転率=月間販売台数÷平均在庫台数
では、簡単な例で計算してみましょう。
平均在庫30台、月間10台販売の場合
- 回転日数=30台÷10台×30日=90日
- 回転率=10台÷30台=0.33
このような平均在庫と月間販売台数の販売店では「3ヵ月で1回転」しているということになります。
ぜひ、自身の会社においてもこの計算式を使って、月ごとの回転日数や回転率を算出してみることをおすすめします。
回転が悪いと経営が悪化するのはなぜか?
どうして回転が悪いと、経営が悪くなってしまうのでしょうか。回転が悪いということは、売れないということなので利益が減ります。
利益が減るとお金が詰まってしまうので、無意味に割り引いて安値で売り急ぐことになるでしょう。
するとインセンティブが減り、今度はスタッフの士気が下がってしまい、長期在庫が増えていきます。
回転が悪いと、このような悪循環に陥ってしまうのです。
一方で、回転が良ければ多く売れているということなので客数が増加します。すると、客の分母が増えますので販売機会も多くなっていくことでしょう。
利益が増えるとスタッフの士気も上がり、在庫車も新鮮になるという良い循環が生まれるはずです。
回転が悪いと長期在庫車が増える、すなわち「金が詰まる」という状態になります。ここに経営悪化の要因が集約されるのです。
回転を上げるにはどうすれば良いのか?
回転を上げていくためには、以下の要素が必要です。
- 売れる商品をそろえる:地域に合った品ぞろえ
- 売れる価格をつける:お買い得感のある金額
- 売れる条件を設ける:安心して買える商品、支払いやすい金融商品
- 売れる人材をそろえる:営業の基本ができている
- 売れる告知を行う:ターゲットに合った媒体とキャッチコピー
まず、人気の車をそろえる以上に、地域に合った品ぞろえをしていく必要があります。
また、「他店がこの価格をつけているからうちも同じにしよう」といった流れではなく、自社は自社の価値で売っていくというマインドが大切です。
そして、保証の設定といったお客様が安心して購入できる環境(条件)を整えつつ、営業スタッフそれぞれにおいても基本的な販売スキルの向上を目指しましょう。
さらに、ターゲットに合わせて適切な広告を打つことも重要です。
展示規模による適正在庫は回転率で決まる
在庫をそろえるにあたって、気になるのが「適正な在庫数」です。しかし、適正在庫とは展示スペースを常に満杯にしておくことなのでしょうか?
C店 | D店 | |
営業スタッフ1人当たり目標台数 | 8台 | 8台 |
営業要員 | 3人 | 3人 |
月の販売目標台数 | 24台 | 24台 |
目標回転率 | 0.5 | 0.6 |
適正在庫台数 | 48台 | 40台 |
ご覧のとおり、同じ条件でも回転率を高めると適正在庫は少なくて済みます。回転を良くすれば、在庫を減らすことができるのです。
適正な在庫数は、「販売台数÷目標回転率」で求めることができます。この例では、C店は「販売台数目標24台÷0.5」D店は「販売台数目標24台÷0.6」で算出します。
このように、適正在庫を決定する要素は販売台数と回転率です。展示場のキャパシティではなく、あくまでも「何台売るか」によって適正の台数は変わります。
したがって、1回転で10台販売であれば在庫は10台、0.5回転で10台販売であれば在庫は20台としなければならないということになります。
そして、回転率を上げるためには、以下の取り組みが必要です。
- 商品構成の見直し
- タイムリーな商品化
- 適正価格の調整
- 営業スタッフの営業力アップ
展示までのリードタイムを見越した仕入れ
もう1つ大切な要素があります。それは、展示までのリードタイムを考慮して、落札・買い取りを計画することです。
一般的には、オークション会場からそのまま展示場に車が並ぶわけではありません。落札から陸送、入荷時の検品、そして12ヵ月点検やオイル交換などの展示加修をしてから初めて展示場に並びます。
そのため、平均何日で展示できるのかという「リードタイム」を頭の中に入れながら落札や買い取りを計画する必要があるのです。
たとえば、1日1台販売、展示までのリードタイムが5日とすると、10日ごとに15台を仕入れる必要があります。
仕入れの際は、単純に販売台数目標×回転率で出すだけではなく、このリードタイムも見越して台数をそろえていきましょう。
回転率を加味した販売台数目標になっているか?
ここまでご説明でおわかりかと思いますが、当月の販売台数目標は在庫の回転を意味します。
回転率=販売台数÷在庫台数
販売台数目標=在庫台数×回転率
販売台数目標は、在庫台数×回転率で変動します。したがって、従来の「販売目標台数=営業スタッフの平均実力台数+努力目標台数」という目標設定は、在庫台数や在庫効率を無視した目標台数になっている可能性があるのです。
ご自身の会社においても、回転率とマッチした目標となっているかどうか計算してみましょう。
回転は支払ったお金を回収するまでの「期間」を表しており、回収に至るまでには在庫経費もかかっています。
そのため、販売台数の多寡で経営を判断するのではなく、常に回転率・在庫日数がどうであったかで販売の良否判定、ひいては資金繰りの良否を判断していきましょう。
まとめ:経営者は品ぞろえを交叉比率で判断
以上、中古車在庫の投資効果を見る指標「交叉比率」と、経営の効率を測る「回転」について解説しました。
まず、適正在庫は「交叉比率」から求めましょう。
(粗利益÷売上高)×(売上高÷在庫金額)=(粗利益÷在庫金額)
→売上粗利益率×回転率=在庫高対粗利益率
営業スタッフはたくさん売れることで、非常に喜ぶはずです。しかし、経営者では回転が良く利益が多い経営を目指しましょう。
自身の会社においても、「交叉比率」がどうなっているかという判断軸で目標設定をしてみましょう。
記事協力:
株式会社ティオ 代表取締役 山本 覚
略歴
新車ディーラー(マツダオート横浜)で営業職を経験した後、カーアフター業界専門コンサルタント会社に営業職として入社し、仙台、大阪、福岡の営業所長を経て指導部部長を8年務める。1999年(平成11年)に独立し、カーライフビジネス業界専門経営コンサルタントとして40年近くにわたり、カーアフター業界専門に実務改善指導・部門再構築指導、人材開発指導・マニュアル開発・諸規定策定等担当。また、カーメーカーおよび業界団体、関連企業等の依頼による職能別・階層別・テーマ別の各種セミナー・講演会等を担当。
詳しくはhttp://www.tio21.co.jp/administration/profile.pdf
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