マーケティング

メンテナンスパックの必要性。顧客獲得における本当の効果と目的

投稿日:2021/08/12更新日:2021/08/12

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株式会社ティオ代表山本 覚氏による講義の一部「個客密着のためのメンテナンスパック販売」というテーマの内容をご紹介します。

本講義を受けた参加者からは
すぐに取り組める内容であったため、会社全体で進めていこうと思います。
なぜメンテナンスパックが必要なのか、がよくわかりました。
という声が上がっています。

実際、皆様はメンテナンスパックをどのように販売していますでしょうか?
メンテナンスパックはそれ自体の売上以上に効果が期待できる商品です。

今回は、メンテナンスパックの必要性、顧客獲得における本当の効果と目的を解説していきます。

整備業界のサブスクリプションと言えるのがメンテナンスパック

メンテナンスパックとは車検までの整備や点検など、アフターメンテナンスをセットにした定額料金のパック商品を指します。

新車購入時、将来的な車の整備を見越して加入を勧めることが多いです。

このメンテナンスパックの入庫率は、点検獲得率に比べて高い傾向があります。
下記の結果から、どのディーラー店でも入庫率が80%を超えているのがわかります。

いずれにしてもメンテナンスパックの入庫率は非常に高いため、ストックビジネスの補強につながります。

このメンテナンスパックの特徴としては下記の5つが挙げられます。

  1. 収益が安定的
  2. 予算が立てやすい
  3. 加入しているお客様の会社に対する好意度が高い
  4. 営業活動が効率的
  5. 不況に強い

なお、最近よく耳にするようになった、定額料金でのサービス利用を指す「サブスクリプション」ですが、自動車整備業におけるサブスクリプションと言えるのがメンテナンスパックです。

自動車整備業においてはたとえば、ブリヂストンの「Mobox」のように、タイヤとメンテナンスを月額定額で利用できるサブスクリプションも普及し始めています。

なぜサブスクリプションが魅力的なのか
ビジネスは大きく2つ、フロー型とストック型に分けることができます。

常に新規顧客を必要とするフロー型のビジネスは毎回の取引で売り切り、収益を上げていくスタイルです。

そのため、景気や政府の施策といった外部要因の影響を受けやすい特徴があります。

一方、サブスクリプションなどのストック型のビジネスは、一度顧客を獲得できれば同一顧客からの継続受注を安定的に見込めるため、景気などの外部要因の影響を受けにくいという利点があるのです。

つまり、サブスクリプションは顧客と契約を結び会員の確保によって継続的な利益を得られるビジネススタイルであると言えます。

■ストックビジネスの特徴
ストックビジネスとは、蓄積型の売上や収入構造を持ったビジネスのことです。ストックビジネスの特徴として、下記の4点が挙げられます。

  1. 接点機会が増えるので、顧客に対する深い理解を得ていくことができる
  2. 顧客に対する深い理解はマーケティングの基本
  3. 業務を通じて顧客との接点を維持できる
  4. サービスの利用状況や改善など顧客に対して深い理解ができる
  5. お客様との密着度が高まることにより、さまざまな提案が可能となります。

サブスクリプション=ストックビジネス拡充のための強化策

今後、ストックビジネスを強化していくために必要な点が大きく分けて3つあります。

・囲い込み:会員化の促進
整備業であればメンテナンスパックの拡販に対して、真剣に取り組んでいく必要があります。
メンテナンスパックは車販時に一緒に契約してもらうイメージですが、整備工場では難しいので、サービス入庫のどのタイミングでも加入できるメンテナンスパックが必要となります。

・個別サービス:ファン化
従来の顧客管理から個別管理へ転換していかなければなりません。
そのためにも、お客様別の売上目標を細かく設定し、それを管理することで「個客管理」につなげる必要があります。

・継続性の強化:お客様の優越を設計
個客ランクを設定し、お客様のランクに対応して差別化を図ります。
それは、限られた資源(人・物・金・情報)の適正配分を行い、効果的に活用していく上でも大切です。

また、個客ランクを設定する際、お客様をどうランクアップさせていくかの計画も同時に立てることで、生涯の顧客化に繋がります。

「囲い込み」「個別サービス」「継続性の強化」の対策を講じることで、会員を増やし安定経営につなげることが可能となります。

これが「ストックビジネス」が進化していく理由であり、真価なのです。

今、メンテナンスパックが必要な理由

では、メンテナンスパックの必要性についてもう少し深く見ていきましょう。

今までは、ディーラーと自動車整備事業所の2つが競争関係にありました。

しかし、現在ではガソリンスタンドや中古車販売店、ネットのインフラを持っている企業など第3、第4の勢力が台頭し、自動車整備業を脅かす存在になってきています。

それに加えて新車ディーラーは、顧客の囲い込み戦略を強化し、それにより付加価値の総取りを図ってきています。いわゆるバリューチェーンの推進です。

保有台数が減少して従来の販売台数を見込めない中、それをカバーするために自動車整備サービスや中古車、保険などの業務に乗り出し、落ち込み分以上のバリューを取り戻そうとしているのです。

こうした競合の中で、私たちの顧客が狙われている状況にあるため、失客してしまうことのないように歯止めをかける必要があります。

■入庫回数と取引内容が継続に与える影響
では、失客を防ぐためにはどうすればいいのでしょうか。参考になるデータを2つご紹介します。

・有償整備入庫回数と乗換先の関係

有償整備入庫回数が6回以上になると、86%のお客様がその店舗で乗換をしています。

一方、入庫回数が2回以下の場合は35%まで乗換率が下がっており、約2.5倍の開きがあります。
サービスの入庫回数を増やすことで、お客様の乗換につながっていることがわかります。

・取引内容と次回の車検取引意向

お客様との取引内容を車検・点検・車購入・保険と分けた場合、車検だけを行ったお客様の8.3%が、次回も必ず車検を依頼すると回答しています。

一方、車検にプラスして点検を依頼したお客様の22.2%が、次回も必ず車検を依頼すると回答しているため、約2.5倍の開きがあります。
また、「車検+点検+車購入」のお客様は45.2%が次回も必ず車検を依頼すると回答しています。

「車検+点検+車購入+保険」のお客様の場合、51.0%が次回も必ず車検を依頼すると回答しています。

取引アイテムの増加に比例して次回の車検依頼の意向が高まっていることから、メンテナンスサービスの取引が、他の取引を誘引していると言えるのです。

お客様を囲い込み、会員になってもらう必要性と目的

あるアンケート調査でお客様に継続取引意向を聞いたところ、51%のお客様が浮動的ユーザーであることがわかりました。

その、浮動的である理由として「業者を変更したいが情報がないので我慢している」と、回答したお客様は53%でした。

多くのお客様が浮気心を持っていることから、この状態を放置すると少しでも良いサービスを提供してくれる競合他社に移ってしまいます。

そこでお客様の囲い込みを行い、会員になってもらう必要があります。

今以上に顧客数を減らさない囲い込みの手段が問われており、どうやって会員になってもらえるかを常に考えなければならないのです。

会員化の真の目的
会員化の目的は顧客付加価値の最大化であり、そのポイントは下記の3つです。

  1. 収益の最大化:一人のお客様からの利益を最大にする
  2. リピート率の最大化:車検回帰率や自社乗換率のリピートを最大にする
  3. クチコミの最大化:SNSを通じてお客様に良い評判を広めてもらう

会員化はあくまで上記目的のための手段です。つまり、会員化は単なるつなぎ止めではなく、その後どうするかが肝心となります。

■会員化後の狙い
顧客の会員化に伴い、その先の目標となるのが真のお客様満足(CS)経営の実現です。

お客様から選ばれる経営を目指すためにも、以下の要素に取り組む必要があります。

・点の管理から面の管理の実現
今のお客様を大事にするという意味では、点の管理から面の管理を実現する必要があります。

車検から次の車検まで、その間は何もしないというのではなく、しっかりと継続してお客様の管理・アプローチを行うということです。

常にそばにいて頼れる存在であることが大切です。

・一点集中売上から分散売上の実現
お客様に対し、必要な時に必要な整備を提供できる体制づくりのことです。

・お客様と協働した保守管理の実現
お客様の車両に関する保守管理の提案や実行を担っていくということです。

・社員にお客様意識を持ってもらう
仕事の本質は「お客様のため」という意識を社員に持ってもらう必要があります。

お客様ファーストで行動することで、満足度の向上に貢献します。

・ストックビジネスの強化
前述の通り、ストックビジネスは安定した経営推進につながります。

上記5つの事柄を通じて、お客様仕様のサービスプログラムを作り、個別管理を実現することで、お客様から見た時に「私のための整備工場」という存在になる必要があります。

個別管理が実現できれば生涯取引客が増えていくことにつながります。

したがって、単にメンテナンスパックを作って売るのではなく、それを通じてどのような経営を目指すのかを視野に入れながら開発することをおすすめします。

自動車整備業における会員=メンテナンスパックによる会員制度

続いて、自動車整備業における会員の種類や会員制度について解説します。

会員の種類
一般的な会員制度には以下の3種類があります。

・カード会員
入会金や年会費の徴収をせずに、会員にだけ特典や金額の割引を行います。

・ポイント会員
購入金額に応じてポイントを付与します。そのポイントを次の購入代金に充当させる制度です。

・積み立て会員
毎月一定額の積み立てを行い、積み立てた金額以上の買い物が可能となります。

このような会員制度というのは、扱っている商品自体に価値がある場合にのみ成立します。

しかし、整備商品はニーズ商品ではありません。仕方なくやることが多い商品であるため、上記のような会員制度はマッチしないのが現状です。

そこで、お客様にとってどのような会員制度が良いのかを考える必要があります。

■整備の場合は「安心」が担保できる会員制度
整備商品の場合、運行の安全・安心を経済的に提供する会員制度がベストです。

そのためにもメンテナンスパックには以下のような要素が求められます。

  • 一定の交換部品+定期点検をセット化する
  • セットメニューを任意で組み合わせることができるようにする
  • それをスケジュール化し管理する

また、付帯サービスとしてはこのような点が挙げられます。

  • 巡回サービスの提供
  • 整備保証(無料または有料)の付保
  • 整備以外の各種サービス(点検教室、軽整備教室)
  • 技術料などの割引特典

これらの商品を組み合わせれば、メンテナンスパックの会員制度として運用することができます。

■メンテナンスパックの加入割合
では、お客様はメンテナンスパックにどの程度加入しているのでしょうか。

2018年のデータでは、ディーラーでの新車販売時のメンテナンスパック契約率の平均は70.2%と高い割合を示しています。

しかし、ディーラーにおける車検回数ごとの入庫率を見てみると、初回は73.4%と高いものの、2回目、3回目と回を重ねるごとに入庫率は下がり、4回目以降は44.1%と低くなっています。

車販時に約70%の囲い込みをされていますが、車検回数に反比例して車検入庫率は低下しています。

この現象をチャンスととらえ、「ディーラーで車検を受けなくなっていくお客様」に対し、自社のメンテナンスパックで自社のお客様として狙っていくべきです。

メンテナンスパックは他への波及効果が期待できる

実際、メンテナンスパックはさまざまな実績への波及効果につながることが明らかになっています。

メンテナンスパックを導入したある整備工場の実績データを見てみましょう。

2012年(平成24年)からメンテナンスパックを販売。初年度の契約数は280でしたが、2019年(平成31年)には468まで契約数が伸びています。

また、2012年時にはメンテナンスパック入庫台数が236であったものの、2019年には1,470まで伸びています。

2012年時点では車検回帰率が46.4%でしたが、2019年時点では59.8%に上昇しています。

つまり、メンテナンスパック契約数の伸びに比例して車検台数・回帰率が増えていると言えます。

まとめると、メンテナンスパックの効果としては以下のような点が挙げられます。

  • メンテナンスパックの入庫台数が年々増えている
  • 納引きをしないので来店客も増えている
  • 車検も年々増えてきている
  • 車検回帰率も右肩上がりになっている

メンテナンスパックには金額が安くなるという難点があるものの、他の実績にプラスの効果をもたらします。

つまり、トータルで判断すればメンテナンスパックを導入すべきだと考えられます。 

まとめ

ここまで、メンテナンスパックの必要性、顧客獲得における囲い込みの効果や目的についてご紹介してきました。

メンテナンスパックは商品そのもの以上に、お客様と私たちをつなげる力を持っています。

お客様とつながることによりストック型のビジネスとして強化され、安定した経営を推進できる可能性が広がります。

これを機会に運用の設計をぜひ見直してみてください。次回以降は、具体的な商品化についてご紹介していきます。

記事協力:
株式会社ティオ 代表取締役 山本 覚 

略歴
新車ディーラー(マツダオート横浜)で営業職を経験した後、カーアフター業界専門コンサルタント会社に営業職として入社し、仙台、大阪、福岡の営業所長を経て指導部部長を8年務める。1999年(平成11年)に独立し、カーライフビジネス業界専門経営コンサルタントとして40年近くにわたり、カーアフター業界専門に実務改善指導・部門再構築指導、人材開発指導・マニュアル開発・諸規定策定等担当。また、カーメーカーおよび業界団体、関連企業等の依頼による職能別・階層別・テーマ別の各種セミナー・講演会等を担当。
詳しくはhttp://www.tio21.co.jp/administration/profile.pdf